2024.09.13
日本各地の地名には、さまざまな由来がある。なぜその地域がそう呼ばれるようになったのか探ると、そのコミュニティの中心となっていた神社の由緒にたどり着いたり、歴史や産業、文化にルーツが垣間見えることも。そんな地名にまつわる伝説・伝承や民話を取り上げるのが【あさくら地名ものがたり】。今回は、原鶴に伝わる伝説とともに、地名に関する一考察を楽しむ方法を少しだけご紹介しよう。
原鶴と言えば福岡を代表する温泉のひとつ。弱アルカリ性単純泉と単純硫黄泉の「ダブル美肌の湯」で知られる名湯である。
その昔、一羽の鶴が湯浴みをして傷を癒していた。鶴が飛び立った後の水たまりを調べてみると、それが温泉だったという伝説が、原鶴温泉の開湯のきっかけのひとつと言われている。
原鶴の「鶴」や平塚川添遺跡にほど近い「白鳥」など、渡り鳥の飛来を由来とする地名は日本全国に多々見られる。渡り鳥は地磁気を感知するセンサーのようなものを持っており、それを頼りに移動するという説があるのだが、地磁気を発するもののひとつには鉄がある。「鶴」や「白鳥」など渡り鳥の地名が残る場所を調べると、鉄鉱山や古代製鉄の跡地であることが多いそうだ。
古代の製鉄は、足で踏んで風を送るタタラを用いるタタラ製鉄法。朝倉エリア内の遺跡に鉄器が出土していたり、「多々連」という地名が残っているなど、朝倉エリアにも古代製鉄の足跡が感じられることから、原鶴に渡り鳥である鶴が飛来していたとしても不思議はない。
さて、次に着目したいのは「原」の字である。文化庁の「語形のゆれについて」によると、「原」は「源」と同義。どちらも「みなもと」や「おこり」「もとづくところ」という意味を持つ。清らかな温泉が沸く「みなもと」を意味する「原」に、絶え間なく流れ続ける筑後川の豊かな水辺に飛来する渡り鳥「鶴」、名湯で知られるこの地にとてもふさわしい名ではないだろうか。
今回は原鶴の地名を挙げ、地名の謎を考える味わい方の一例をご紹介した。地名に残るひとつの文字をじっくりと見つめてみると、渡り鳥や製鉄、語形のゆらぎまで、さまざまなキーワードが飛び出してくる。そのヒントは祭りや信仰、地域産業や伝統工芸のほか、生活スタイルや食文化まで、多岐に渡って地域の日常に隠れている。
正解はわからずとも、さまざまなキーワードを組み合わせるうちに見えてくる謎の解明こそ、歴史をひもとく醍醐味のひとつ。近年は、市町村合併でなくなってしまう地名が多いと耳にする。地名の由来に加え、地名そのものが深いところに眠ってしまうのは残念だが、その謎解きのおもしろさをさまざまな形で後世に残していきたいものだ。
いかがでしたか?記事の内容についてのご感想や、ご自身の視点をSNSでシェアしましょう。HAMONISTの記事は、あなたの人生に寄せる波紋の源。朝倉から生まれた波紋を受け、あなたの心が感じた何かが、他の誰かの毎日を彩る新しい波紋として生まれ続けることを願っています。
【参考サイト】
・原鶴温泉旅館協同組合公式サイト
・文化庁ホームページ「語形の「ゆれ」について(部会報告)」