2024.10.25
木は生き物である。品種はもちろん、生育環境などの条件に大きく影響を受け、細胞のかたちや大きさ、構成にも個体差が生まれる。生き物として木がどのような物語を見守ってきたのかを想像することは、木を鑑賞するおもしろさのひとつと言えよう。この記事では朝倉を代表する3種の木をピックアップ。木と地域のくらしや産業、文化の結びつきを探ってみよう。
髪を美しく保つつげ櫛の原料としても有名なツゲ。朝倉の北エリアにそびえる古処山のツゲ原始林は、全体に占めるツゲの割合が8〜10割と高く、国内でも非常に貴重なもの。国の特別天然記念物に指定されている。オオヒメツゲを中心にアサマツゲ、マルバツゲが自生する。
ツゲ林は、黒田藩により大切に守られてきた秋月のツゲ原始林も。約3ヘクタールの原始林は福岡県の天然記念物に指定されている。
朝倉の産業と木の関わりを語る上で最初に挙げられる木と言えばハゼだ。国内最大のハゼ栽培面積を持つ福岡県でも、黒田藩は全国一の産地として知られており、中でも朝倉は最大の収穫量を誇っていたそうだ。
山口県長門市にある国指定史跡・三隅山荘には、2017年7月九州北部豪雨で被災し、復興のための工事で切らなくてはならなくなったハゼの木が植樹されている。朝倉と同様、櫨蝋の名産地だった三隅だが、その産業の歴史を今に伝えるハゼの木が残っていなかったこともあり、寄贈されたという。かつて地域の産業に欠かせなかった木が、時を超えて地域をつなぐ存在となったわけだ。
学校や神社、鎮守の森など、人々のくらしの中にいつも生きているクスの木。朝倉には天然記念物に指定されているものや、伝説や地域の言い伝えを持つものも多い。例えば樹齢1500年以上とも言われる国指定の天然記念物・隠家森には、朝倉の関所を通れない人が隠れて夜を待ったという伝説があり、「筑前国続風土記」に記されている。
木が見つめてきた朝倉のくらし、人々の毎日の営み。まちの景色や生活様式が変わっても、変わらず生き続けているということは、それだけ地域の人々に大切にされてきたということだろう。地域に生きる木は、神の依代やひもろぎのように、これからもずっとまちと人々を見守り続けるのだ。
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【参考サイト】
・朝倉市ホームページ「古処山ツゲ原始林」「県指定天然記念物」
・長門市ホームページ「三隅山荘ハゼノキ植樹式」