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2024.11.15

【ユネスコ無形文化遺産登録へ】日本の食文化と麹のお話

日本山海名産図会_麹醸

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関が、日本の伝統的酒造りを無形文化遺産への記載を勧告。このニュースは我が国でお酒づくりに携わるすべての人たちに、素直な喜びと誇り、未来へ向けた使命感を届けてくれました。

そもそも酒造りはさまざまな国や民族に古くからある文化です。各国・各地の気候・風土に合った菌を用い、それぞれの民族文化や産業、くらしのスタイルの中で育ってきました。それでは今回ユネスコ無形文化遺産登録がすすめられる日本の伝統的酒造りは、どのような特徴・固有性を持っているのでしょうか。この記事では日本の酒造・食文化を支える「麹」について深く掘り下げます。

日本の酒造文化が持つ二つの特徴

麦麹_AC

国税庁が公開している「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り」調査報告によると、日本の酒造文化には大きく二つの特徴があります。一つは日本が海に囲まれた島国であること。国境が地続きの国や民族とは異なり、日本は島国なので容易に他民族の影響を受けることがありません。この環境が日本の酒造りを純粋な“民族の酒”に育てることにつながりました。

また、味のHAMON「【無形文化遺産・日本食を支える発酵文化】食べられるカビと食べられないカビ」で触れた通り、日本固有の「こうじ菌とそれを応用したこうじを持つこと」も最大の特徴のひとつ。麹菌は日本の国菌。この菌があったからこそ、酒造はもとより日本の独特の食文化が生まれたと考えられます。

【こうじの表記について】

「こうじ」は漢字にすると麹と糀の二つの表記があります。「麹」は中国から伝わった文字で、「糀」は明治時代に日本で作られた文字。昔の中国では主に麦を使い、日本では主に米を使って「こうじ」をつくっていたからと言われています。

明確な決まりがあるわけではありませんが、現在「麹」と書くと麦や大豆、米などの穀物を原料としたもの、米こうじは「糀」と表記するのが一般的です。

※本記事の参考にした国税局「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り」調査報告(PDF)では「こうじ」と表記しています。

日本の国菌・麹とは

日本の酒造りの固有性を高めているのが、麹菌の存在。麹菌の学名は「アスペルギルス・オリゼー」、正しくはニホンコウジカビというカビの一種です。

カビと言っても食べられるものとそうでないものがあることは、先の記事「【無形文化遺産・日本食を支える発酵文化】食べられるカビと食べられないカビ」で触れた通り。麹菌にはさまざまな種類があり、お酒や焼酎、泡盛などの酒類、醤油や味噌などの調味料、鰹節などに利用されます。

糀_AC

食べられるカビ(麹菌・コウジカビ)の種類

・白麹菌…焼酎などに使われます。
・黄麹菌…醤油や味噌、お酒などに使われます。
・黒麹菌…沖縄の泡盛などに使われます。
・鰹節菌…鰹節に使われます。

2024年11月現在、日本の伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産登録に勧められていますが、麹菌が使われている食品を見ると、いずれも日本食に欠かせないもの。つまり、2013年にすでに無形文化遺産に登録されている「和食:日本の伝統的な食文化」もまた、この麹菌がなければ成り立たなかったと言えるでしょう。

日本の麹の起源

播磨国風土記

『播磨国風土記』,古典保存会,1926.
国立国会図書館デジタルコレクション 参照 2024-11-14

それではここで日本における麹の起源について見てみましょう。我が国最古の麹と見られる記述があるのは奈良時代に編纂されたとされる「播磨国風土記」。

大神の御粮(みかれい)沾(ぬ)れて
黴(かび)生えき、すなはち、酒を醸さしめて、
庭酒(にわき)に献りて宴しき

(神様へお供えしたお米が濡れてカビが生えたので、醸してお酒をつくり、庭酒として献上し酒宴をした)

この舞台となった神社が兵庫県宍粟市にある庭田神社。そのため、この神社を日本酒発祥の地とする一説も。

兵庫県の庭田神社には奈良時代の記述がありますが、日本における麹を使った酒造起源の候補地は他にもあります。一番古いもので言うと現存する日本最古の書物である「古事記」を根拠とする島根県出雲市、室町時代の「御酒之日記」「多聞院日記」の酒造りの記録を根拠とする奈良県奈良市などがあります。

いずれの説も有力ではありますが、21世紀の現在も受け継がれる日本の“民族の酒”および日本の食文化は、古くから麹菌という驚くべき微生物のチカラに支えられてきたことは確かです。

正暦寺_AC

正暦寺(奈良市)の「日本生酒発祥之地」の碑

日本の酒をジャパニーズカルチャーの入口に

現在、世界で人気を集める日本のお酒。そのきっかけは2013年に「和食:日本の伝統的食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことでした。文化庁によると、2024年12月2日からパラグアイで開かれる政府間委員会で無形文化遺産への登録が正式に決定するそうです。今回の「日本の伝統的酒造り」の登録へ向けた動きは、日本のお酒人気をさらに加速させると予想できます。

おいしさそのものに加え、日本の国菌・麹菌を使った酒造り、つくり手の思いや日本各地の多彩な文化に目を向けてもらいたい!世界中の人びとにとって「SHOCHU」や「SAKE」が、日本文化を知るためのはじめの一歩になる日もそう遠くないのかもしれませんね。

【参考サイト】
・文化遺産オンライン「世界遺産と無形文化遺産
・文化庁 「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表登録に関する評価機関による勧告
・西播磨ツーリズム振興協議会事務局「庭田神社
・しまね観光ナビ「
菩提山真言宗 大本山 正暦寺「清酒発祥の地

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